松本トミは高澤家の親戚筋にあたり鏡子の従姉妹である。明治20年に山
形で生まれ、鏡子より17歳年下であった。鏡子は高等小学校を卒業した
トミに「お手伝いさんとして家事を手伝ってほしい」と手紙を出した。ト
ミは幼い頃から鏡子に尊敬と憧れを抱いていたので、安達家に奉公する事
を快く承諾した。峰一郎がメキシコ公使になった時、峰一郎は子どもを彼の両親に託して赴任したので、留守宅の家事はトミに任された。トミはそれを手際よくこなし、親戚の人々からは「おトミさん」と呼ばれ親しまれた。トミが峰一郎の海外赴任に同行するのはベルギー公使赴任からである。第一次世界大戦の最中、博士夫妻と戦乱のヨーロッパに赴いたトミは、戦火に怯えながら、九死に一生の体験を味わったのである。こうして、忠実な執事として安達家に一生を捧げたトミは、現在山形市三日町の聖徳寺の墓地で母親と一緒に眠っている。
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